お見合いだけど、恋することからはじめよう

「もし、奥さんと娘ちゃんに出て行ってほしくなければ、とりあえず……『新田さん』だっけ?
先輩の会社のその人のように、左手薬指にしっかりと結婚指輪をすることね」

あたしは未婚にもかかわらず、腕を組んでエラそうにアドバイスした。

「はぁ?……なんで結婚指輪したら、あいつらがうちから出て行かないんだ?」

目黒先輩が腑に落ちない顔をする。

「奥さんは結婚指輪してる?」

「妊娠中は外してたけど、出産して体重が戻った最近は……またしてるかな」

……じゃあ奥さんは、先輩に対して、まだ愛想を尽かしてないな。

夫婦仲が悪くない人でも、出産を機にサイズが合わなくなったりして外すようになるものらしいのに、またつけてるんだ。
よっぽど気に入ったデザインならいざ知らず、別れたいと思う相手とおソロの結婚指輪なんて、あたしならイヤだもんね。

「ほんとは奥さんにちゃんと『これからもずっと傍にいてほしい』くらい言えればいいんだけど、先輩としてはこっ恥ずかしてハードル高いっしょ?」

その辺の「性格分析」は昔取った杵柄だ。
甘いこと言いそうな顔してるくせに、なかなか言えないタイプなのだ。
むしろ、クールな顔した諒くんの方がまだ言えるタイプのようだ。

案の定「そんなの、今さら言えるかよ?」という顔をしている。

「だからさ、先輩が結婚指輪をすれば、奥さんとの結婚に対して『ちゃんと受け入れているからね』っていう『意思表示』にはなると思うんだ」

たとえ、本人が覚悟の上とはいえども、社会に出てやりたかったはずのことを犠牲にしてまで、先輩の赤ちゃんを産んでくれたことには違いないと思う……だからさ。

……奥さんには、せめて、そのくらいのことはしてあげようよ?

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