お見合いだけど、恋することからはじめよう
「……あ、緑川はおれが結婚してるってことは知らなかったからさ。ほんとに無理言って、おまえをここへ呼んでもらったんだ」
決まり悪そうな顔で、目黒先輩は言った。
「うん、わかった」
あたしは、ふふっ、と笑った。
先輩が既婚者だと知っていたら、千夏は絶対にあたしをここへ呼んだりはしなかっただろう。
「あぁ……でも、やっぱ、おれ……」
「なに?」とあたしが目を遣る。
「……おまえがよかったなぁ」
……まだ言うか?
「早く、うちへ帰りなよ、先輩。
かわいい奥さんと娘ちゃんが待ってるよ?」
あたしはバローネ・リカーゾリを最後の一滴までしっかり飲み干した。
そして、ハイスツールから立ち上がった。