お見合いだけど、恋することからはじめよう
「……はい」
あたしは【応答】をタップして、通話に出た。
「なにか、ご用でしょうか?」
自分でも、冷たく堅い声になっているのに気づいた。
『……ひさしぶりに東京に来たんだ。
メシでも食いに行こう。なにか食いたいものはあるか?』
あの頃、あたしの心を一瞬で鷲づかみにした「愛しい」声がそこにあった。
「ムチャ振り」か?と思えるほどの強引さも相変わらずだ。
「申し訳ありませんが、急にそうおっしゃられても困ります。それに……もう、赤木さんとは関わりたくありませんので」
あたしにしては、これでも精いっぱいの「拒絶」だった。
赤木さんとつき合っていたときのあたしは、なんでも彼の言いなりで、それこそいつも尻尾を振りまくっている仔犬のようだったから。
「……七海」