お見合いだけど、恋することからはじめよう
不意に、少しくぐもったスマホを通したものではないクリアな響きが、あたしの耳に降りてきた。
振り向くと、少し先に赤木さんが立っていた。
……しまった。
とっとと、メトロに乗って帰るべきだった。
彼は手にしたスマホを一回タップすると、堂々とした足取りで、あたしのすぐ傍まで近づいてきた。同時に、あたしの手の中のスマホの通話が切れた。
「……七海、そがん言葉ば遣うて、なん艶つけとうや?」
彼の近寄りがたいほどの端正な顔が、人懐っこそうな笑みとともに崩れていく。
あの頃、あたしだけに向けられていた、と信じていた笑顔だ。