お見合いだけど、恋することからはじめよう

不意に、少しくぐもったスマホを通したものではないクリアな響きが、あたしの耳に降りてきた。

振り向くと、少し先に赤木さんが立っていた。

……しまった。
とっとと、メトロに乗って帰るべきだった。

彼は手にしたスマホを一回タップすると、堂々とした足取りで、あたしのすぐ傍まで近づいてきた。同時に、あたしの手の中のスマホの通話が切れた。

「……七海、そがん言葉ば(つこ)うて、なん(つや)つけとうや?」

彼の近寄りがたいほどの端正な顔が、人懐っこそうな笑みとともに崩れていく。
あの頃、あたしだけに向けられていた、と信じていた笑顔だ。

< 263 / 530 >

この作品をシェア

pagetop