お見合いだけど、恋することからはじめよう
次の瞬間、あたしは赤木さんに引き寄せられ、抱きしめられていた。
『……初めから、七海を狙っていた。
七海をモノにしたくて、総務に言って呑み会をしてもらったし、今日だって無理を言って呼び出してもらった』
抱きしめられた腕の力が、強まっていく。
『信じないかもしれないけど、
……自分からこんなふうに『仕掛ける』なんて、生まれて初めてなんだぜ?』
くくっ、という笑い声と同時に、彼の身体が揺れた。つられて、抱きしめられたあたしも揺れる。
『……なして、博多弁ば遣ぉてくれんと?』
彼の腕の中で、顔を見上げた。
『こがんこっ恥ずかしか言葉ば、言えるはずなかろうも』
彼はあたしの頭をかき抱き、自分の胸に沈めた。
一瞬だけ見えた彼の耳は、赤くなっていた。
石鹸のようなのになぜかスモーキーさも感じられる不思議なフレグランスが、スーツからふわりと香った。
それがブルガリのブループールオムだということを、このときのあたしは知らなかったけれども。