お見合いだけど、恋することからはじめよう
今から思い返しても、それから半年の間は、あたしがこれまで生きてきた中で一番しあわせなときだったと、断言できる。
赤木さんの営業企画部は、青山の情報システム部とどっこいの激務な部署なので、デートするときはいつもすべて彼の都合に合わせた。
前につき合っていた目黒先輩との別れの直接の原因は、先輩の就職による「すれ違い」でだった。
だけど、先輩があたしの家族のエリートぶりや、あたしの外見と中身のギャップに、とまどっていたのは感じていた。
実際に『全然イメージが違うじゃんよ。こんなふうな子だとは思わなかった』と言われたし。
そして、どうやら入社した広告代理店で「気になる人」ができたんじゃないか、ということもなんとなく感づいていた。
でも、そんなところに触れることなく別れてあげたのだ。
……目黒先輩が、そのときの人とどうなったのかはわからない。まったく予想だにしなかったという人と結婚をしていたのが先日「発覚」したから、たぶんうまくいかなかったのだろう。
ともかく、赤木さんとの恋愛では、目黒先輩のときに踏んづけてしまった轍を、自らもう一度踏んづけるわけにはいかないと思った。
だから、赤木さんには家族構成は告げても、その経歴には一切触れなかった。
さらに「小動物系」で「夢見る夢子」な外見のイメージから逸脱しないように、徹底して心がけた。
彼の故郷の言葉であることから、二人の距離をぐっと縮めたあたしの「かわいか博多弁」は、そのために非常によい働きをしてくれた。
彼があたしのことをよく知らないうちにつき合いが始まったことは、そのときのあたしには「ラッキー」だとしか思えなかった。
そうやって、浮かれまくっていたのだ。