お見合いだけど、恋することからはじめよう
赤木さんがスマホをタップして通話に出た。
「あぁ……今、本社にいるけど……えっ!?」
彼の声色が変わった。
「なんで、きみまで東京に来てるんだ?」
突然、あたしに背を向ける。
「……いや、別に怒ってるわけじゃないけど。
今回の出張は来月から始まるプロジェクトに備えての大事な会議だって言ったろ?
それに、ひさしぶりの古巣だし、今夜は元同僚たちと呑みに行く約束なんだ。
……えっ?……一緒に行きたい?」
最後の方の声は、低音の赤木さんにしてはめずらしく、上擦ってひっくり返りそうになっていた。
「……桃子……それは無理だよ」
とうとう、通話の相手の「固有名詞」が出た。
……彼が思わず言い放つまでもなく、とっくに気づいていた名前だけど。