お見合いだけど、恋することからはじめよう

あたしは赤木さんの大きな背中に向かって「失礼します」の口パクをして、形だけの会釈したあと、気づかれないように背を向けた。

そして、メトロに乗るために青山通りを目指して、少し早足で歩き始める。
あたしの姿はすぐに雑踏に紛れて、彼の目からは見えなくなるだろう。

……やっぱり、まだ続いてたんだな。
ちょっとやそっとでは、離れられる相手じゃないもんね。

知らず識らずのうちに、あたしの口からため息が漏れ出ていた。


それに「あれ」から三年も経つのだ。

系列の自動車会社の本拠地である名古屋からの情報は、こっちにはなかなか入ってきていないだけで、指輪のない左手薬指だからって、あてにはならない。

赤木さんも、目黒先輩のように結婚しているのかもしれない。


……桃子さんと。

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