お見合いだけど、恋することからはじめよう

「さあっ、ケンちゃんに会いに行きますよっ!」

彩乃さんは細っこく見えるが、モデル並みの長身の上に、しなやかな筋肉の持ち主だった。

本人は「スポーツに縁のないインドア派」だと言うが、大学時代はチアリーディング同好会に入っていたらしい。

どうやら、ハードながらもスポーツと呼ぶには微妙なカテゴリーの競技で、しかも体育会には所属していない「同好会」のため、ほかの部の応援に駆り出されることもなく、ただ体育館でひたすら練習を(おこな)っていただけだったということから、そのように思っているみたいだ。

「いやぁよおっ!わたしはフラれたのよぉっ!
……今さら、どんな顔をして会えっていうのよぉっ⁉︎」

駄々っ子のようにムズがる同じく長身の誓子さんを、彩乃さんはこともなげに「拉致」し、引きずるようにして秘書室から出て行く。

あたしは両拳を握りしめ、

「誓子さん、ファイトですっ!」

とエールを送った。ポンポンを振りたい気分だ。

「だからっ、誤解なんですってばっ!
ケンちゃんの方がお断りされたんですっ!
何回も言ってるじゃないですかっ‼︎」

「そんなの、ウソよぉっ!」

「だったら、直接本人に聞きましょうっ!
……さあっ‼︎」

二人の声は副社長室に入っていくまで、廊下じゅうに(こだま)していた。

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