お見合いだけど、恋することからはじめよう
「……武田専務から、
『とりあえず、堅苦しく考えず、娘と一度ちゃんと会ってくれ。それで駄目だったら、あいつは諦めるだろうから』
と言われて、断りきれずに桃子と『見合い』したのが……いや、そのときは見合いとは言われてなかったし、下手におまえに言って怒らせるのはイヤだったし……とにかく、それがすべての間違いだった」
赤木さんはふーっと重い息を吐いた。
「その席で桃子から、入社した頃からおれのことが好きで、七海とつき合っているのは知ってるが、会社で出世するには自分を選んだ方が得策だ、みたいなことを言われた」
……桃子さんが言ってたことと、まったく違うじゃん。
「桃子さんから、お見合いは『「形式的」なもので、わたしたちの結婚はもう決まっている』と聞いたよ。それに、赤木さんが『きみと違って、七海と結婚しても、上にはのぼって行けない』って言ったって……」
そのときに味わった思いが、じわじわと甦ってきた。
「はぁあ?……あいつ……なん言うとうとや……」
赤木さんは苦虫を潰したような顔になった。
「まぁ、おれに出世欲がないと言えばウソになるからな。だから、揺れたことは否定しない。
実際、一ヶ月近くおまえを避けてたしな。
……でも、桃子は『ないな』と思った。
ああいう手段を選ばず人を操ろうとするような女なんかと結婚したら、おれみたいなのはいつか必ずなにもかも捨てて、逃げ出したくなるだろうからな」
九州人の男ってのは時代が変わってもやはり、女には「主導権」を握られたくないのかな?
……うちのおかあさんも、その辺の「加減」には気をつけて、めんどくさくなるのを避けてるみたいだしね。
そして、赤木さんはあたしをまっすぐ見据えた。
「だから、彼女にはきっぱりと言ったんだ。
親の威光を借りてなんでも自分の思いどおりにできると思ったら、大間違いだ。そんな女に、おれは興味はない、って」