お見合いだけど、恋することからはじめよう
「とっ、『富多』さんって……ふっ、副社長ですよね?」
しがないグループ秘書でしかないあたしのスマホに、副社長から直接通話が来たのは、もちろん初めてだ。
会社用のケータイは持たされていない。かかってきたのは、私用のスマホだ。副社長に連絡先を教えた記憶も一切ない。
「富多」「副社長」という言葉に、赤木さんがびくっ、と反応して、あたしから遠のいた。
「こんな時間にどうなさったんですか?」
正確な時刻はわからないが、もう夜中と呼ばれる時間帯になっているはずだ。
『……彩乃が今夜、突然いなくなったんだ。
君、あいつの居場所を知らないか?
心あたりがあれば、なんでもいいから教えてほしいんだが』