お見合いだけど、恋することからはじめよう

諒くんが住む部屋は公務員宿舎にしては築浅のマンションだったが、独身者に割り当てられるワンルームだった。

「結婚すれば、ここから出なきゃいけないが、どうする?家族用を申請しようか?……でもなぁ」

……えぇ、言いたいことはわかります。「国家公務員の娘」なので。

「築四十年以上の宿舎が割り当てられることもありますよね?」

都内で破格の家賃だということが国民の皆さまにバレて以降、削減されるようになった「国家公務員宿舎」だが、それでもまだ「生き残っている」古参の宿舎がある。

「まぁ、耐震基準に満たないから、取り壊される方向ではあるけどね」

諒くんが肩を(すく)めて苦笑する。

「えっと……破格の家賃はすっごく魅力的なんですけど、自治会の役員とか、職場に直結した関係でのご近所のおつき合いとか……そういうのが、ちょっと……」

母親の「苦労」を見てきたからだ。今の時代はあの頃とは違う、とは思いたいけれど。

「……わかった。不動産屋へ行って、民間の賃貸物件を早急に探そう」

諒くんはそう言ってあたしの頭をぽんぽんした。

「やっぱ『事情』がわかってるのは手っ取り早くていいな。安さに目が(くら)んで入ったはいいものの、奥さんからグチられて困り果ててる人たちを見かけるからさ」

諒くんはニヤッと笑った。

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