お見合いだけど、恋することからはじめよう

「……でも、仕事が忙しいわりには、お部屋はそんなに荒れてないですね?」

あたしはワンルームを見渡しながら言った。

先刻(さっき)、部屋に入るなり諒くんが、
『まさか、ななみんが部屋に来るとは思わなかったから……』
と、めずらしく焦りながら、床に散乱する衣類を片っ端からドラム式の洗濯機へ放り込んでいった。

ベッドとともに置かれたローテーブルには郵便物が山積みになっていたけれども、簡易なキッチンは使った様子もないほど、きれいなままだった。

「あぁ、うちで料理なんかしたことないからね。ここのところはずーっと三食ともコンビニ弁当さ。それに『会社』関係のだれに見られるかしれやしない『社宅』に、むやみやたらに引っ張り込んでつくってもらうわけにもいかないしな」

……その女性は、あくまでも「遊ぶ相手」ってことですね?

あたしの顔が急速に曇っていき、心の底からなんだか得体の知れない沸々としたものが湧き上がってくる。

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