お見合いだけど、恋することからはじめよう

諒くんのくちびるが近づいてきて、あたしのくちびるに、ちゅっ、と触れる。

「ななみん、もう我慢できない……いいよな?」

諒くんがローテーブルの向こうにあるベッドへとあたしを(いざな)う。

「えっ……ちょ、ちょっと待って。
せめて、シャワーを浴びさせて……」

今日一日会社で働いて、しかも(赤木さんに「強制的」に連れ出されたとはいえ)呑みにまで行ってるのだ。それに、赤木さんに触れられたところをちゃんと「浄め」てから、諒くんと愛し合いたかった。

「悪いけど、もう待てない」

諒くんが横長スクエアのリムレスの眼鏡を外す。

「どうせ、海鮮丼すらまだ食ってない『フライング』だしな」

眼鏡越しではない裸眼のままの瞳に、先刻(さっき)初めて見た妖しい光が、きらり、と走る。


「シャワーなら……あとで一緒に浴びよう」

< 485 / 530 >

この作品をシェア

pagetop