お見合いだけど、恋することからはじめよう
Epilogue
どう見ても場末にある半地下の、看板も出ていない店の怪しげなドアを、諒くんはまるで家に帰ったかのように迷わず開けた。
薄暗いオレンジの間接照明に照らされ、ダークブラウンの年季の入った調度品が目に入る。
「ななみん……どうした?」
諒くんがあたしのこめかみに、ちゅっ、とキスをする。
「ううん、なんでもない」
あたしは諒くんを見上げて、無理矢理、笑顔をつくる。これから会わなければならない人のことを思うと、どうしても緊張してしまう。
そのとき、声がかかった。
「……いらっしゃいませ」
山桜を切り出してつくられたという一枚板のカウンターの奥で、グラスを拭いていた店の者の姿が見えた。
金髪で左耳にダイヤのピアスを輝かせた、二十歳そこそこの若いバーテンダーだった。
……ひいいいいぃっ!
あんた、なんでこんなとこにまでいるのよっ⁉︎