お見合いだけど、恋することからはじめよう
「あ、ななみん」
諒くんがあたしの方を見て、表情を和らげた。
「この店はもともとおれの親父の行きつけのバーなんだけど、ここのオーナーは『伝説のバーテンダー』って呼ばれてる人でね。
おれやおれの親友は、彼から酒の呑み方を教わったんだ」
「うちの祖父っす。本日はあいにく、今度開催されるバーテンダーのコンテストための打ち合わせで外しております。すいません。
諒志さんから『婚約者を連れて行く』って予約があったって言って、すんげぇ楽しみにしてたんっすけどね」
諒くんが、それは残念だ、という落胆の表情になった。
「おれ、ちっちゃいときから祖父に憧れてるんっすけど、いつかはじいちゃんのこの店を継ぎたいって思ってて。それで、『修行』のために今はいろんな店でバイトしてるんっすよ。
……あ、杉山 翔と申します」
バーテンダーが、ぺこり、と頭を下げる。
「あの……水野 七海です」
あたしもつられて、会釈する。
頭を上げたとき、目があった。
彼が目を細めて、にやり、と笑うのがわかった。
……絶対、あたしのこと、覚えてる!