お見合いだけど、恋することからはじめよう
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「ななみんさん……ビールをお呑みになったら、バローネ・リカーゾリも、ロングアイランド・アイスティもありますよ?」

翔くんがいたずらっ子の顔で訊く。

あたしは赤っぽいバスペールエールをごくり、と呑んだ。常温でも呑めるイギリス王室御用達のエールビールだ。フルーティーで濃厚な味わいが口の中に広がる。

下面発酵(ラガー)が主流の日本では、上面発酵のエールビールはめずらしく、大手メーカーではサントリーのプレミアムモルト・香るエールくらいかも。

……やっぱり、覚えてやがったな。

あたしは、ぎろり、と睨んだ。

ということは……目黒先輩との話も、赤木さんとの話も、覚えてるってことだな。

つい先刻(さっき)、諒くんのスマホに通話があって、バーの外に出て行った。
もしかしたら、今夜これから会うことになっている、諒くんの「遊ぶ相手」の一人からかもしれない。

「そんな怖い顔しなくても、大丈夫っすよ。
……諒志さんには、なにも言いませんから」

……やっぱり、覚えてやがるっ!

あたしはますます翔くんを睨んだ。

「その代わり……」

翔くんは不敵にニヤッと笑った。

「ななみんさんから、どんなに頼まれようとも、
『諒志さんのこと』だって、絶対にしゃべりませんからね」

「……へっ?」

あたしは間の抜けた顔になった。

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