お見合いだけど、恋することからはじめよう
「あんたんとこのボスがうちの部に来るようになってから、絶対零度の世界よぉっ!」
そう言って、友佳は机に突っ伏した。
「ええっ?島村室長が?なんで?」
仕事は神経質なくらいきっちりとしているが、その指示は有無も言わせないほど的確で「イヤだ」とか「やりづらい」とかも思ったことないのに。
友佳はMARCHの一角であるC大の法学部を出て入社して以来、ずっと法務部に在籍している。
ちなみにうちの法務部はC大の学閥だ。
島村室長も、そこの法学部から法科大学院へと進んだ。
「それがさ、今までは進藤先生の教えの下、十年一日のごとく『マニュアルどおり』に業務を進めてたんだけどね」
進藤先生、というのは顧問弁護士の名前だ。
進藤総合法律事務所という大企業専門の法律事務所の所長である。
「あれっ、うちの社長の親友ということもあって、直接担当してくれてたんじゃないの?」
社長というのは、彩乃さんの婚約者でもある副社長の父親だ。
「うん、顧問弁護士の代表には変わりはないんだけどさ、『実務』の方を進藤先生のお嬢さんが担当することになったのよ」
……へぇ。お嬢さんも弁護士なんだ。
「そのお嬢さん……光彩先生と、島村室長がね。リーガルチェックやコンプライアンスの解釈の違いとかで、とことんやり合うわけよ。
それだけならまだしも、十年一日のマニュアルまでチェックしだしちゃってさぁ」
「ふうん、島村室長は今までの『慣例』を踏襲すべきだ、って言うのに、その光彩先生は『改革』すべきだ、って言うわけだ」
あたしはモヒートを一口、含んだ。
「違うのよぉっ!」
友佳はモヒートをぐっ、と煽ってから、グラスをごんっ、とテーブル置いた。
ミントの葉っぱが、ふぁさっ、と揺れる。
「二人とも『改革派』なのよっ!
しかも、お互いに一歩も引かないのよぉっ!
どっちの案を採っても、今までどおりじゃないし、やり合ったまんま、ちっとも決まらないしっ!部内の空気はどんどん冷え切って、今ではシベリアの極寒地よっ!
……そんな猛吹雪の中で「抑留」されて「強制労働」している身にもなってよぉっ!!」
一気にそう捲くし立てた友佳は、テーブルに突っ伏した。