一円玉の恋
と、満面の笑みで自己紹介をして来た。

「いやいやいや、おかしいでしょ。どう考えてもおかしいですよね。見ず知らずの人の家に上り込むなんて。」

と全力で拒否する。が、

「けど、どうせ親にも言えないんでしょ?この状況。言いそうにないもん翠ちゃん。友達にだって今すぐは頼れないよね。大家さんは、出来れば、早く出て言ってもらいたいみたいだし。今のこの状況を解決するのは、このまま俺ん家に来た方が手っ取り早いでしょ。目の前だし。引っ越しも楽だよ。」

と、痛いところをついてきて、反論する間も与えずに、

「はい、だがら決まりね。」

と、この山神崇という男は締め括った。

私は、まだ反論しようと言葉を探すが、口から出るのは空気ばかり。
悔しい、悔しいぞ。
何か言ってやらねば、何か言ってやりたい。くそぅ。

渋々、荷物を作って、連行されて行く気分で山神崇の後ろを力なくトボトボと歩いた。

マンションは、外から見ても立派。中も立派。どこかしこも立派。立派立派で、すっげーなぁと眺めるしかない。
打倒格差社会をスローガンに掲げた。

エレベーターはドンドン上がって、最上階に着いた。
チーンと開けばそこは高級そうな佇まいの玄関がドンっと構えてた。
あーもう右回れして帰りたい。

「面白いね。さっきまでの威勢のいいのはどこ行ったのかな。借りてきた猫みたい。はっは面白い。」

と山神崇は勝ち誇ったように言ってくる。
キッと睨んでやる。睨んでやるさ。庶民舐めるなよ。
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