一円玉の恋
おお、これはこれは、お気遣いかたじけない。と、思いながら、注がれた水を一気に飲み干し、
「今日はありがとうございます。改めまして、兼子翠です。大学四年生です。これからよろしくお願いします。」など簡単な自己紹介をして、深々と頭を下げた。
その様子がツボにハマったのか山神崇が大きな声で笑い出した。
何故だ。何が、そんなにおかしい。

「やっぱり、田舎の子っていいよね。素直というか単純でさ。あんまり俺に生意気な態度とるから、なんか仕返ししてやろうって思ってね。気まぐれで拾ってみただけなのに、ちょっと優しくしただけで、そんな急にしおらしくなるものなんだね。本当単純。まあ、面白いから暫くは置いてあげるよ。飽きたら出て言ってもらうけどね。よろしくお願いしまーす。」

と宣った。
殺す!絶対に潰す!やっぱりか。
都会の人は信用出来ない。
いや、コイツが出来ない。
確かにちょっといい人かもって思った。
油断した。失敗した。絶対信じない。
とっとと出て行こう。

「御心配なく、明日速攻で家探して出て行きますので。今日はお世話になります。」

と私は胸を張って宣言したが、
「ああ、そう。あればいいね。物件。おやすみ。」と高笑いしながら、自分の部屋に入って行った。

嫌いだ。嫌いだ。嫌いだ。
アンタなんか大っ嫌いだーー。
探すさ。探すさ。朝一に探すさ。
きっとあるさ。と、地団駄を踏みながら、悔しい気持ちを胸に秘め、寝た。
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