一円玉の恋
その背中に、「いってらっしゃいませ。」と、声を掛けると、山神崇が振り返って小馬鹿にするように、

「あっそれいいね。ご主人様もつけてみる?」

と、言ってくるので、ムキになって、
「つけません!」と、強めに言い返してしまった。
また、山神崇は面白がって、
「怖っ。クックック。行ってきます。」と、後ろ手に手を振ってリビングから出て行った。

帰ってくるな。帰ってくるな。と、呪文を唱え
たが、ここは私の家ではないとハタと気付いてやめた。

山神崇との生活はいつもこんな感じだ、何かと言えばおちょくられて面白がられる。
あの、一円玉のやり取りから考えると、可もなく不可もなく平和である。
もっと酷いことでもされるのかと考えていたが、今のところは好待遇の居候先だ。
感謝しないといけないよねえ。と、考えるが、何か裏がありそうで、素直に喜べないのが現状である。

煮込みハンバーグもまずまずの出来栄えで、美味しく頂きました。と、食材と悔しくも山神崇に感謝して。残りはラップして机の上に置いておいた。

片付けと、お風呂を済ませ、自室で履歴書やらレポートなどを仕上げる事にした。
こんなに落ち着いて何かに没頭出来るなんて、と些細な事でも幸福感に満たされていた。
作業をしながら、まったりとした時間についついそのまま寝入ってしまう。

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