一円玉の恋
旅館はかなり高級だ。
こんな所、おいそれとは泊まれない。
さすがだねえ。と感心しながら、部屋に通される。
凄い凄い凄い豪華!やばい倒れる!倒れそう!いいなぁ。こういう部屋に泊まれる先生は、さすがです作家先生様。
後で遊びに来たいなぁと、羨望の眼差しを向ける。

で、次は私の部屋ですよね。
どんな感じなんだろうワクワク、ワクワク。
先生の部屋よりは庶民的な感じなんだろうな、と思うけど、ここはかなりの期待値だ。
さあ来い!どこだぁ?どこだぁ?とキョロキョロしているが、一向に女将さんは案内してくれない。

「どうしたの?そんな所に突っ立って、入っておいでよ。」

と作家先生様が仰っている。えっ、いいの?入っていいの?じゃあ、ちょっとお邪魔します。と静々と畳みを歩く。
ちょっとはお上品に見えるかな、なんて付け焼き刃的な事を考える。

「ふっはっは。なんでそんなに澄ましてんのさ。なんかペンギンみたいだよ。」

えっ?ペンギン?そんなはずはない!
ちゃんと大和撫子風なはずだ!と部屋に入る。
部屋に入り、まだ懲りずに静々と座布団の前で腰を降ろし、あれ座布団の座り方ってどうだったっけと思案している最中に、女将さんが、

「まぁ可愛らしいお嫁さんですこと。先生も隅に置けませんね、いつご結婚されたんですか?」

えっ‼︎「ええーふっぐぐぐぐ」
と思いがけない質問に叫び声を上げかけ、自分の手で自分の口を塞ぐ。
駄目よ!大和撫子よ!と自分に言い聞かせる。でも、違う、決して私は作家先生様の嫁ではない。
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