一円玉の恋
ここはちゃんと否定しなければ、でも、否定すれば作家先生様は有名な方だから、どう影響するんだろう。
えっでもこれは絶対に違う話しだからと、座布団の座り方なんて思案は吹っ飛んで、次なる課題をクリアしなければと思案する。

「ああ、女将。まだ、籍は入れてないんだ。近々とは思っているんだけどね、彼女がなかなか首を縦に振ってくれなくてね。だから、内緒にしておいてくれるかな。騒がれてまた彼女が躊躇したら困るからね。今が大事な時なんだ。」
と何か言わないとと思って口を開きかけた私を無視して、作家先生様が穏やかな笑みを浮かべて仰った。

「まあ、それは先生も大変ですねぇ。分かりました。そんな大事な方でしたら、私達も守らせて頂きます。」

「ありがとう。助かります。」

「翠、ご挨拶して。」

「えっ、はい。兼子翠と申します。よろしくお願い致します。」

「まあ、先生と同じお名前なんですね。それもご縁を感じますね。本当可愛いお嬢さんだこと。」

「では、また何かありましたら、お声がけください。」

と、お上品にご挨拶をされた女将さんはお部屋を出て行かれました。

えっと、私のお部屋は?どこ?

「翠ちゃん、君のお部屋はここ。俺たちは一緒!」

とけったいな申し出をなさる。
ぎょえええーー。なんで?

「なんで!ですか?」

驚いて口をあんぐりしている私を気にもせずに、

「いい、お部屋でしょ。露天風呂もあるんだよ。後で一緒に入る?未来の奥さん。」

なんて楽しそうに言ってくる。
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