一円玉の恋
「入りません!奥さんにもなりません!」

とピシャリと私が宣言すれば、クスクスクスクスと作家先生様が愉快に笑う。
なんで?なんで?なんでよーーぉ。と、こんな、こんな豪華な部屋じゃなかったら、格式の高い旅館じゃなかったら、思いっきり叫んでやるのに…くそぅ。
じゃあ、私どこで着替えたらいいの?
どこで、寝たらいいの?ねえ誰か教えて。
あっ!杏子さんに聞こう!とおもむろにスマートフォンを取り出して、杏子さんに電話をかける。

「あっ杏子さん?私翠です。」

「あっ翠ちゃん、京都着いたのね?どうそっち暑い?」

「暑いです。結構、汗かきます。」

「今旅館着いて、部屋に入ったところです。部屋すっごい豪華ですよ。なんなら、杏子さんも来ませんか?山神さんがお金をきっと出してくれると思いますよ。」

なんて話していると、作家先生様が、立ち上がって私の方に来ようとしている。
なんか嫌な予感がするので、私もすくっと立ちあがり、作家先生様と一定の距離を取って座卓の周りを歩く、追いかけっこの始まりだ。
捕まる前に、早く本題に入らないと、

「杏子さんあのね。私、山神さんと一緒の部屋に…」

と呆気なくスマートフォンは取り上げられて、そのまま没収された。
私のスマートフォンが鳴っている。
先生が画面を見て電源を落とした。

えーん、えーん、酷いよおーと座布団に伏せた。
今度は作家先生様のスマートフォンが鳴り出した。あっ、きっと杏子さんだ!
先生がチッと舌打ちをして画面をスライドさせた、「なに?」、「それは無理」「やだ」、「わかってるよ」、「そんな事は約束出来ないね」、「うるさいなぁ」、「はいはいわかったよ」「切るよ」、とタップした。
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