一円玉の恋
また、だんだんと彼のペースに翻弄されていく。
「翠、好きだよ。」「愛してるよ。」と甘い吐息を漏らしながら彼が繰り返して何度も囁いてくれる。
そして、「翠、帰ろうか?」と言ってくる。
また、私は首を横に振る。
「うーん、ダメか。頑固だねぇー翠は。」と半ば呆れたように言ってきた。
「翠の美味しいご飯が食べれないのも辛いんだけどね。」

今まで美味しいなんて、言ってくれた事なかったのに、こんな時に言うなんてずるい。
けど…流されない。
だってね。自分が決めたことだものね。
ここで山神さんに流されたらダメだよね。と、
今度は自分から、彼の唇に口づけをして、「もうちょっとだけ待っててね。」と囁いて。
したり顔を彼に向けた。彼が固まっている。

「翠〜。もうダメだ。堪んない!我慢の限界!
杏子に殺されても構わない。翠の体にしっかり自分を刻んどかないと、誰かに取られるんじゃないかと、心配でおちおち寝れないし、仕事出来ない。」

と、覆い被さろうとしてきた。

それには、お約束どおり、杏子さんがどかっと山神さんを後ろから蹴って、「はーい、お巡りさんに突き出しますねー。」と言って止めてくれた。
杏子さんが呆れて、

「ほんとっ!心配で見に来たら、二人とも私の目の前でイチャイチャイチャイチャと、どんだけやってんのよ!羨ましいことしてんじゃないの!」

と息巻いている。

山神さんが、

「痛いな、ちょっとは加減しろよ。」

と起き上がって文句を言っている。

「うるさい!ここは、わ、た、し、ん、ち!アンタは不法侵入!」

と、言い放つ。
その様子に、杏子さん、やっぱりかっこいいなぁ。素敵です。と私はうっとりする。
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