一円玉の恋
山神さんは「お義父さん、逆ですよ。僕にとって翠さんの方が勿体ないんです。必ず大切にします。こちらこそ、これからもどうかよろしくお願い致します。」と深々と頭を下げた。
父がそこに、「結婚までは我慢して頂けますか?」と付け加えて来たので、「もちろんです。お約束します。」と返事をしていた。何を?だ?

母も大喜びで「いい男見つけたわねえ。」と言っている。
だがしかし、私は?
私の返事は?と三人で盛り上がっている所に、「私の意見は?」と聞くと、間髪いれず山神さんから返事が返ってくる。

「もうご両親にも承諾を得られたし、決まった事だからね。取り消しはなしね。だって、もうじき会社の研修も始まるでしょ。変な虫につかれても困るからね。だから、これはお守りね。無くしちゃダメだよ。あと、返品は不可ね。」

と、山神さんが私の薬指にさっき取り出した指輪をはめて来た。
親の前なのに、「好きだよ、翠。」の言葉もつけてだ。

母は山神さんの溢れんばかりの毒気にやられたようで、目がキラキラしている。
私は、さすがにボンっと顔が赤くなる。
ううっやられた!待つ、って言ったのにぃと恨めしい目でジッと山神さんを見る。
私の思っている事が分かったのか、「ちゃんと待ちますよ。だからね、早く自分の夢実現しようね。俺おじいちゃんになっちゃうよ。」と言ってくる。
うーーん、おじいちゃんになられるのは嫌だな。
それまでにはなんとかしてやろうじゃないかと意気込んだ。

私の両親に挨拶を済ませて、そう日が経たない内に山神さんのご両親に挨拶に伺った。

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