カラダから、はじまる。
局長室から聞くともなく父の声が聞こえてきた。
「……じゃあ、その件はそういうことで。
あぁ、それからな、田中……いきなりの話で驚くかもしれないが……」
父が話している先客は「彼」だった。
彼……田中 諒志は、事務局長である父のしちめんどくさい書類作成を丸投げされる立場にあった。まぁ、三十代前半の若手官僚の仕事なんてそういうものだが。
だが、仕事の用件は済んで、明らかに「私用」の話にシフトする気配だ。
……おとうさん、田中に何の話をする気なんだろ?
「君がもし……今、結婚を考えているような人がいないのであれば……」
我が父ながら滅法仕事のできる人で、部下に対しても感情的にならずにいつでも理路整然と指示を出すのに、なんだかひどく言い淀んでいる。
「……うちの娘はどうかな、と思ってな」
『うちの娘』って……もしかして、わたし?