カラダから、はじまる。
庁内では、体内に一滴の血も流れていないかのごとく思われている「人造人間」田中が、文字どおり抱腹絶倒している姿を目の当たりにした彼の課内の人たちは、茫然自失となって凍りつき、だれもが自然とマネキンチャレンジをしていた。
「ちょ、ちょっと……高木っ!
た、田中が……こ、壊れちゃったじゃんよっ⁉︎」
わたしは涙目になって、高木のチャコールグレーのジャケットの袖を掴んだ。
「あまりにも忙しすぎて……とうとう、発狂しちゃったんじゃないのっ⁉︎」
しなやかに身体のラインにぴったり沿った縫製や、手触りだけで判る上質な生地から、結構なお値段の代物だとは察したが、緊急事態だ。
「あ、あなた……田中の『秘書』でしょっ⁉︎」
その腕をぶんぶん揺さぶりながら、わたしは叫んだ。
「な、なんで……あんなになるまで、働かせたのよぉっ⁉︎ もう救急車は呼んだのぉっ⁉︎」
……もし、シワになったら、あとでクリーニング代を払うから今は許してぇっ!
「……落ち着いてください、七瀬さん」
高木は穏やかな声で、まるでパニックを起こした園児を宥める幼稚園の先生かのように言った。
「諒志さんは……えーっと、その……
……ただ『笑ってるだけ』ですから」