カラダから、はじまる。
Last Secret
あの日以来、七海は田中の住む新宿の公務員宿舎に入り浸りになり、赤坂見附のマンションへはほとんど帰ってこなくなった。
父の機嫌がすこぶる悪い。
『このままだと「外聞の悪いこと」になりかねないわね』
ぼそりとつぶやいた母は、即「行動」を起こした。一応世間からはお嬢さま学校と呼ばれている女子校の教頭という職務上、我が子の「授かり婚」は避けたいようだ。
田中と七海がお見合いをしたホテルの宴会部に教え子が勤務していて、問い合わせると六月に入っていたバンケットルームの予約が、ちょうどキャンセルされたところだったと言う。
母はすぐに押さえた。
そして、「お嬢さんをください」という「儀式」のために、うちにやってきた田中に、
『勝手なことして、ごめんなさいねぇ』
と、母はわざとらしく言ったそうだが、
『ありがとうございます。助かりました』
と、田中はニヤリと笑ったそうだ。
ひさしぶりに顔を見た七海の左手薬指には、ティファニーのリボンリングが光り輝いていたらしい。
こうして、田中と七海の結婚式の日取りが決まった。
先日、お仲人をお願いした金融庁の証券取引等監視委員会の委員長ご夫妻と両家が揃った席で、結納が取り交わされた。
その後、先に入籍だけでも済ませてきちんとしておきたい、という田中の要望で婚姻届が提出された。
ようやく、安心したのか、それとも諦めがついたのか……父の機嫌が治った。