カラダから、はじまる。
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今日が、彼らの結婚式の日だ。

我が国を代表する一流の老舗ホテルの教会(チャペル)での結婚式が終わり、これからバンケットルームへ移動して披露宴である。

新郎新婦(田中と七海)とわたしたち親族はその合間に、記念の写真撮影となっている。


その場所へと赴きながら、わたしは先刻(さっき)までのチャペルでの挙式を思い起こしていた。

もともと、多忙な仕事ゆえに七海()と顔を合わす機会は激減していたから、彼女がほとんど家にいなくても、わたしにとっては違和感はなかった。

それとも、もしかしたら精神(こころ)の負担をできるだけ軽くするために、脳内麻薬でも分泌されているのであろうか?

すでに彼らは婚姻届を出して新しい戸籍に入った正真正銘の「夫婦」だというにもかかわらず、わたしにはまるで実感がなく、頭の中はまるで霞がかかったような感じで毎日を過ごしていた。

だが、田中の手によって、結婚指輪であるティファニーのクラシック ミルグレインが、七海の左手薬指にすーっとはめられていったそのとき、突然、脳内が鮮明になり、わたしは「覚醒」した。

とたんに……
ぎりりっ、と胸に鋭い痛みが走る。

知らず識らずのうちに盛り上がっていた涙が耐えきれず、つぅーっと頬を伝っていくのがわかった。

わたしは黒の 2.55(パーティバッグ)から、真っ白なハンカチを取り出してそっと拭った。


……あぁ、ほんとうに、

田中は七海と結婚してしまったんだ。

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