カラダから、はじまる。
それでも、あさひ証券からは社長ご夫妻と専務ご夫妻がお見えになった。
結婚式が始まる直前、親族用の控室でウェルカムドリンクのスパークリングワインを軽く呑んでいると、今年の二月にあさひ証券の専務取締役の息子と田中の妹が結婚したということで、上條専務一家もこの控室を利用されていた。
しかも、社長である水島ご夫妻もご一緒だった。
なんでも、同族企業であるあさひ証券は、社長の奥様と専務の奥様が姉妹らしい。
新郎用のタキシード姿で挨拶に現れた田中に、
「あ、諒志先輩!」
専務の息子らしき(なかなかイケメンの)青年が声をかけた。もしかして、学生時代の後輩なのだろうか?
「よう、大地……おまえ、亜湖を泣かしてるんじゃねえだろうな?」
田中が凍てついた目で睨んだ。
「えーっ、泣かしてないっすよ!」
専務の息子があわてて弁明する。
「もおっ、おにいちゃん、いきなり大地になんなのよっ」
花唐草の図柄に二羽の鴛鴦が刺繍された臙脂色の色留袖を纏った、まるで日本人形のような(美少女と言ってもいい)女性が、田中に喰ってかかった。
……この子が、田中の「妹」か。
漆黒のミディアムボブが、さらに彼女の「市松人形」度を高めている。
「こんなところでやめんか。みっともない」
田中の父親が、苦虫を噛み潰したような顔で制する。
「ほんとにもう、みなさんの前で恥ずかしいわ」
常盤松の図柄に金糸や銀糸で刺繍された扇が裾を取り巻く黒留袖姿の田中の母親も気色ばむ。
田中の妹の顔立ちは母親にそっくりだった。