カラダから、はじまる。

金融庁(会社)に入って初めてあなたを見たとき、こんなに容姿も経歴もすべてが完璧な(ひと)が、この世の中にいるなんて、と思った」

彼の両手のひらに包まれた、わたしの頬が一瞬のうちに朱に染まる。
男の人からこんなふうにストレートに言われたのは、生まれて初めてだ。

「本来ならば、大学を卒業したら、家元の付き人として『修行』に入ることになっていたのに、流派の人たちを束ねるには『社会経験』も必要だと無理を言って、就職を認めてもらった甲斐があった、と思った」

こっ恥ずかしいから、(あか)く染まった頬を見られたくないのに、彼の両手のひらがそれを許さない。


「あなたは僕のことなど気づきもしなかったけど……僕はあなたをずっと見ていた」

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