カラダから、はじまる。
「……下の娘は、上と違ってなんでも一人でやれるような自立したタイプじゃないから、どうにも先々が心配でね。待望の二人目だったのに、切迫早産でかなりの未熟児で生まれてきたこともあって、私も家内もついつい甘くなってしまってな。多少、聞き分けのないところがあるんだが。
……それでももし君さえ良ければ、一度会ってみてくれないか?」
父の声がはるか遠くから聞こえてくる。
「あぁ……無理にとは言わないからな。
別に私の立場を使って頼んでいるわけじゃないんだ。イヤならほかのヤツをあたるから、遠慮なくそう言ってくれ。それに君のように優秀な者であれば、なにもうちの娘じゃなくても……」
「……お嬢さんはなにをされているんですか?」
父の声を田中が遮った。
「あぁ、家内の実家の伝手でね、TOMITAの持株会社に勤めているんだ。
……これが、七海の経歴等を記した釣書だ」
父が書類を差し出して、田中が受け取る気配がした。
母方の祖父が三鷹でグループ企業のTOMITA自動車の販売店を経営しているので、妹はTOMITAホールディングスに就職し秘書室で勤務していた。
「正直言って勉強には向かない娘でね……お世辞にも君のような相手を望めるような経歴ではないのだが……」
父の声がくぐもった。田中が中身に目を通しているのだろう。
確かにわたしたちのような御三家・女子御三家と呼ばれる超進学校からT大法学部というほどではないが、妹だって「お嬢さん学校」と言われる女子校の中学入試を経て「お嫁さんにしたい」と言われるT女子大を卒業している。
……おかあさんが教頭を務める女子校に入って、女子大には指定校推薦をもらって面接と小論文で進学したけどね。
「……僕の妹と同じですね」
田中の声が聞こえてきた。
わたしはいつだったかの呑み会で、彼が妹のことを話していたのを思い出した。
……そういえば、女子校育ちの妹がコンパで呑み過ぎて「悪い虫」にお持ち帰りされないように、二十歳になるとすぐに父親と一緒に「鍛え上げた」とかって、怖ろしいことをさらりと言ってたな。
聞くところによると、その妹はもうすでに成人になって何年か経つというにもかかわらず、その風貌は市松人形のような「美少女」らしい。