カラダから、はじまる。
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「……ふうん、田中は君の妹と見合いするのか」

いつの間にか、横に人が立っていた。

「意外だな……人造人間(サイボーグ)でも出世に目が(くら)んだか?」

わたしは声の主の方を見上げた。
一六〇センチ半ばある身長のわたしだが、相手はさらに十センチ以上高いのだ。

「……自分がこの前、某政治家の娘とお見合いしたからって、田中も同じだとは思わないでよ?」

腕を組んで、じろりと睨む。

……それに、あの「水野局長」は娘婿になったからといって出世街道にピックアップするほど、甘い人じゃないわ。

「『政治家の娘』じゃないよ。華道の家元の娘だぜ。君の親父さんに見込まれた田中みたいに、おれがどう出世街道にピックアップされるっていうのさ?」

声の主……本宮(もとみや) 秀喜(ひでき)はにやり、と笑った。

彼も田中と同じく大学からの「腐れ縁」だ。
もっとも、そもそも金融庁(ここ)ではそうめずらしくもない大学と学部なんだけど。

「よく言うわ。そのお相手の離婚して出て行った母親が、お祖父(じい)さんの地盤を継いで衆議院議員じゃないの。次の内閣改造では大臣に抜擢されるって(もっぱ)らのウワサよ?」

わたしは大仰にため息を吐いてやった。

「……でも、いいんじゃない?
役所で公務員なんかして出世街道の道端で上司に向かってヒッチハイクするよりも、腹黒のアンタには政治家の方がよっぽど向いてるわ。
公共放送で全国ネットされる国会の予算委員会でだって、後ろの席から小走りで答弁席に駆け寄る『役人』よりも、定位置で立ったり座ったりできる『国会議員』の方が気分いいでしょ?」

……同期が一人減れば、そのぶんわたしは長くここにいられるしね。

定年退職まで中央省庁に残れる総合職(キャリア)なんて激レアなのだ。同期のだれかが省庁での事務方トップの事務次官にでもなれば、残りの者は退官するという不文律の「慣例」もある。
その後の就職先が、俗に言う「天下り先」だ。


「綺麗な顔して、相変わらずの毒舌だな。
……『ミスT大』さん?」

口惜しいけれど、端正としか言いようのない顔を歪めて本宮は唸った。

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