カラダから、はじまる。

「……ところで、本宮」

「なんだ、七瀬?」

庁舎(会社)では「水野」といえば「水野事務局長」のことなので、私は「七瀬」と呼ばれている。
なんだか姓のような名前だから呼びやすそうだ。

……妹は「七海」っていういかにも女の子、って名前なのにね。

私は十一月七日生まれ、妹は二月十七日生まれということで、二人とも「七」のついた名になった。

「水野局長に用事?……だったら、さっさと入って行きなさいよ。こんなところで油売ってて大丈夫なの?」

今の時期は一月からの通常国会が、会期延長の末にようやく閉会してやれやれといったところだが、政局の動静如何(いかん)でいつまた臨時国会がセッティングされるかしれない。

国会で各省庁から内閣を通して提出される法律案や、各委員会(全国中継されるのは主に予算委員会だけだが、それぞれの省にも委員会が設けられていて、会期中にはテレビに映らないところでも質疑が繰り広げられているのだ)で野党からの質疑に対する大臣の答弁書を作成するのが、国家公務員である「官僚」の仕事だ。(民◯党政権のときは官僚出身の大臣が多かったから、答弁書は自分で書いてくれていたらしいけどね)

そして、その法律案や答弁書を作成するために、旧態依然とした紙の資料とまだまだお粗末なデータベースを漁ったあと、お役所言葉の魔法の呪文である「等」という言葉を駆使して適用範囲を際限なく拡大させ、最終的にはどんな国文学の権威が読んでも「よくわからない」という摩訶不思議な日本語の文面になるよう下書きをするのが……

……わたしたち若手総合職(キャリア)なのである。

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