カラダから、はじまる。
局長室から田中が出てきた。
「……本宮と水野じゃないか。めずらしい組み合わせだな。局長の手はもう空いたぞ」
彼だけは……わたしのことを「七瀬」とは呼ばない。相変わらず、学生の頃のように「水野」と呼ぶ。
「おい、諒志」
本宮が田中に声をかける。
田中はありふれた姓だから、ほかの「田中」と区別するために下の名前で呼ばれていた。
……だけど、わたしは一度も呼べたことないけどね。
田中が本宮の方へ視線を移す。長身の二人は目線がほぼ同じだ。
「おまえ……水野局長のお嬢さん……七瀬の妹と見合いするのか?」
あからさまな本宮の問いに、田中が「立ち聞きしていたのか?」とちょっと呆れた顔になる。
そのとき、「諒志さんっ!」と声がして、わたしたちは声の方を見た。
「まだこちらにいたんですね……例の件に関しての問い合わせが、あの政治家の秘書さんから何度も来てまして……」
田中の下で働く高木とかいう二十代半ばの一般職の子だった。
「わかった、すぐ行く」
田中がそう応じると、高木は踵を返して足早に戻って行った。