カラダから、はじまる。

「見合いするのは……出世のためじゃないぞ」

高木が去って行った方向へ身体(からだ)を向けながらも、顔だけこちらに振り向けた田中は、わたしと本宮を見据えた。リムレスの眼鏡のレンズが光る。

彼が人造人間(サイボーグ)と揶揄されるのは、醸し出す雰囲気もさることながら、その無機質なまでに整った顔立ちのせいでもある。

「なにも局長の手を借りなくても、おれは自力で出世してみせるからな」

そうきっぱりと言い放った彼は、完全に背を向けたかと思うと大きく一歩を踏み出し、みるみる間に遠ざかって行った。


「……こっちも、早く用件済まさないと、山岸(やまぎし)が追っかけてきそうだわ」

「あぁ……うちも戸川(とがわ)が来そうだ」

わたしも本宮も、声にならない声でつぶやいた。

決して強い口調でもなかったのに……
むしろ、落ち着いた口調だったのに……

田中の妙な迫力に、すっかり圧倒されてしまったのだ。

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