カラダから、はじまる。
……もしかして、七海が断ったのだろうか?
もしそうなら、あの子のことだから、うちで言わないわけないと思うんだけれども。
おとうさんに尋ねてみようか?
でも、もし藪蛇になったりしたらなぁ……
「ほんとに不可解ですよ。
水野局長……なんで、七瀬さんにしなかったんですかね?」
対面のデスクに座る山岸がPCのenterキーをターンッ、と思いっきり叩く。
……国民の皆さまからの血税で購入した備品だから、取り扱いは丁寧にね。
手元の資料とPCのディスプレイを交互に見ながらキーを叩いていたわたしは、顔を上げて山岸を見た。
と言っても、そのデスクはわたしの指示によって集められた資料が堆く積まれていて、まったくその表情は窺えないが。
「だって……七瀬さんの方が、絶対適任じゃないですか?」
……山岸、そうだよね?
親だったらさ、三十過ぎたってのに、ろくに男っ気のない姉の方を、まず推すよね?
七海は来年の二月が来たとしても、まだ二十七歳なのだ。
……ありがとう、山岸。
いつもしちめんどくさいことをすっかり丸投げしているくせに、虫の居所の悪いときにはねちねちと小姑のようにイビったりして、ほんとにごめんね。
わたしのキーを打つ手が思わず止まる。
すっからかんに乾いた砂漠のようだった心が、うるっと来た。