カラダから、はじまる。

「わたし」という人間は、なんてさもしいのだろう。

好きでもなんでもないはずの男に抱かれているのに、こんなことでも考えていないと、文字どおり身も世もなく翻弄されそうになっているのだ。

……心を伴わないセックスなんて、いつものことなのに。

なぜなら、わたしが唯一本当に好きになったあの「彼」とは、とうとうカラダの関係にはなれなかったからだ。

十八歳の頃から三十一歳の今まで続く「腐れ縁」で、大学のときの同級生であるだけでなく、勤務先では同期でもあるというのに。
つまり、大学も勤務先も一緒だということだ。


「……ほかのことを考えられるなんて、ずいぶん、余裕だな?」

今まで猛々しい「自身」でねっとりとわたしの胎内(なか)を掻き回していた男が、いきなりぐんっ、と腰を入れた。

「……あ……っん……っ」

思わず甘い声が漏れてしまった。
同時に、胎内(なか)をぎゅっと締めてしまう。

感に()えられず細く薄めた目で見上げてみると、男の顔が忌々しげに歪んでいる。
それでいて眉間にシワを寄せ、ぐっと奥歯を噛み締めて男の方も(こら)えているようだった。


その顔を見るともなく見つめていたら、かつて大学時代のゼミの呑み会で「彼」が言っていたことを思い出した。

『オンナの胎内(なか)で、どうしても持ってかれそうになったときには、2 , 3 , 5 , 7 , 11 , 13 ……って数えるようにしてる』

こんなことを女子(といっても、酔い潰れずに話を聞けているのはわたしだけだが)の前でしれっと言う、ろくでもないヤツだった。


「ねぇ……素数を数えると、いいらしいわよ?」

わたしは男に「提案」した。

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