カラダから、はじまる。
「お見合い、と言えば……本宮さんもしたんだよな?確か……華道か茶道だかの家元の跡取り娘だっけ?」
山岸がPCのディスプレイに目を向けたまま、戸川に訊く。
「華道よ。お見合いのあと、何回か会ってるらしいんだけどさ……ちょっと困ったお嬢サマみたいなんだよね」
「へぇ……どんなお嬢サマ?」
山岸のPCのキーを叩く音が止まった。
「お嬢サマとデートしてたら、父親の『家元』から本宮さんのスマホに連絡が入ったんだって」
「えぇーっ、やだな、それ」
山岸が盛大に顔を顰めた。
「なんでもその流派の華展があって、お嬢サマも出展しなきゃいけないのに、まったく姿を現さないから、本宮さんに会場まで連れてきてほしいって……」
わたしも思わず、PCの手を止めて戸川を見た。
「それで、仕方なく本宮さんがお嬢サマを連れて行ったんだけど、ふてくされた様子でテキトーにお華を生けるもんだから、結局は家元の側近のお弟子さんがすっかり直していたそうよ。
お嬢サマが生けたお華、素人目から見てもひどいもんだった、って本宮さんが呆れた口調で言ってたわ」
「……そのお嬢サマ、親の跡を継ぐ気なんかないんじゃね?」
「だよねー。ほんとに本宮さん、そんなお嬢サマと結婚する気なのかなー?」
戸川は、うーんと唸って眉間にシワを寄せた。
「でも、見合いして、そのあとデートしてるってことはさ……結婚に向けてつき合いを始めたってことだろ?」
山岸も腕を組んで、うーんと唸る。
そこで、わたしは我に返った。
「あなたたち、そんな無駄口叩けるくらいヒマなのかしら?
戸川、用が済んだらさっさと自分の課に戻りなさい。本宮から聞いたことを、ほかでべらべら喋るんじゃないの。今に大目玉を喰らうわよ?
山岸、そんなにヒマなら例のデータ、共有ファイルに置いてあるから確認よろしくね……あ、今日中にね」
そう指示して、わたしはPCのenterを思いっきりターンッと叩いた。
……「お嬢サマ」と結婚するんだったら、金融庁を辞めて政治家になるってことでしょ?
だったら、なんでリーダー研修に参加するのよ?
とっとと辞退しなさいよっ!