カラダから、はじまる。
局長室に入ると、父しかいなかった。
「……着替え、持ってきました」
わたしは接客用の黒革のソファの上に、母から持たされた紙袋を置いた。
「あぁ、悪いな、七瀬」
「水野局長」は「父親の顔」で言った。
「もう歳なんだから、若い頃の調子でいつまでも無理しないでよ?おかあさんも心配してるよ?」
だから、わたしも「娘の顔」になる。
「わかってるさ、今の仕事はもうじき目処が立つ。おかあさんにも、そう言っておいてくれ。
……あ、これ頼む」
父が洗濯物の入った紙袋を差し出す。
「それからな…… おまえも庁内のウワサでなんとなく知っていたかもしれんが……」
わたしはその紙袋を受け取りながら、父を見た。
「七海を、田中と見合いさせようと思う」