カラダから、はじまる。

突然、全身がカッと熱くなって、どっ、どっ、どっ…と心臓を叩く鼓動なのか、それとも全身を駆け巡る血流なのか、あの音が聞こえてきた。

「えっ……あのウワサ……本当だったの?」

「田中には、夏ぐらいに『打診』して受けてもらっていたんだがな」

なのに、そんな「異変」は表情(かお)にはまったく出ていないのであろう。
なにも気づかない父が言葉を続ける。

「田中の方もようやく目処(めど)がついたみたいだから、日取りを決めることにした。
もっとも、向こうは夏頃から親と日取りの話はしていたみたいだけどな。リーダー研修などに(かこつ)けて、おれがいったん止めていた」

「えぇっ、おとうさん、止めてたの?
かれこれ半年にもなるじゃない……どうして?」

わたしは怪訝な顔になる。

「おまえ、ヤツのことは学生時代から知ってるのなら……わかるだろ?」

父が苦虫を噛み潰した顔で唸る。

「『身辺整理』のできていないようなヤツに、大事な娘をやれるか」

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