カラダから、はじまる。
「おとうさん……七海を、そんな相手と結婚させるの?」
思わず、言葉が漏れ出していた。
「あいつはおれが今まで見てきた中でも断トツに優秀な男だから、七海が食いっぱぐれることもないだろうと思ってな。しかも、顔もいいしな。
そういう男だったら、まぁ……多少の『過去』は仕方ないさ。おれも通ってきた道だ。
むしろ、結婚前に『オンナ』を知らない総合職の方が、結婚してから『オンナ』を知って箍が外れたように遊び狂うことがあるから心配だ。
祥子と結婚してからのおれみたいに、きれいさっぱり心を入れ替えて、これから先の七海を幸せにしてくれるのだったら、それでいい。
だけど……おれもなぁ、まさか田中がこの話に乗ってくるとは思わなかったんだよ。
あいつがこの話を受けなかったら、次は本宮に持っていくつもりだった」
……茂彦、アンタなんだかしれっと「余計な話」をブッ込んでいないか?
でも、めんどくさいから華麗にスルーしよう。
「どうして、そんなに急ぐの?
七海はまだ……二十六歳じゃないの」
……そうよ、急がなければならないのは、七海よりわたしの方なんだけどっ。
「男っ気のない七海を心配して、おかあさんが『庁舎でだれか七海にいい男いないの?』ってうるさいんだ。七海はおまえと違って『腰掛け』の仕事だからな。三十歳までにはなんとしても片付けたいんだろう。
……おれは正直言って、七海にはおまえの歳まで家にいてもらいたいんだけどなぁ」
「鬼の事務局長」とは思えないほど、父は情けない顔になっていた。母と七海がこの人の「弁慶の泣き所」なのだ。どちらにも「いい顔」をしたいのだろう。
……だからと言って「部下」でもある娘の前でそんな顔、やめてよね。
しかも、自分とほぼ同じ顔なのだ。
普通にしていたら、細面に切れ長の目で鼻筋の通った……若かりし頃にはさぞかしモテたに違いない顔なのに、萎れてへにゃりとなっているのは見たくない。