カラダから、はじまる。
「おとうさんは『一生を添い遂げられる男が必ず見つかる』って言うけど……今までわたしには結婚の話なんてしたことなかったじゃん。
それに、田中には『なにも女に生まれたからと言って、結婚して子どもを産むことだけが幸せとは限らない』って、言ってたんじゃないの?」
わたしは口を尖らせた。
まだ七海が生まれる前、幼かったわたしがよくしていた表情だが、両親の前では今でも時々出るのだ。
すると、とたんに父が破顔する。
三十過ぎた娘のこんな顔なんて、見られたものではないと思うのだが、父親はなんだかうれしそうだ。
「建前ではなんとでも言うさ。本音では、娘には幸せな結婚をしてほしい、って願わない男親なんていないよ」
でも、わたしはちょっと調子に乗って、「そうかなー?」という顔をしてやる。
「あ、おかあさんだって、こう言ってたぞ。
七海の仕事の関わり方なら相手に合わせて融通が利くから、ある程度勢いで結婚を決められるけれど、責任ある立場の七瀬はそうもいかないから、理解のある相手をじっくり探さないといけない、って。でないと、せっかく結婚しても、なまじっか経済力のある七瀬はすぐにでも離婚してしまいそうだから、って。
……おかあさんだって、やっぱり七瀬に『人並みの幸せ』を望んでるんだよ。今はまだ仕事中心のおまえに話してもイヤがるだけだろうと思って、言わないだけだ」
……さすが、教師。
仕事が忙しくて、わが子のことなんて見てないとばかり思っていたが、しっかり見ていた。