カラダから、はじまる。
お風呂から出てリビングに入ってきたわたしに、妹が声をかけてきた。
「あのね……あたし、今度お見合いするかもしんないんだけどさ」
……単刀直入に来たな。まぁ、七海らしいけれども。
わたしは奥のキッチンで冷蔵庫を開け、中からスーパードライの缶を取り出した。
最近は発泡酒も美味しいのが出てるっていうのに(っていうか、カロリーオフなのが呑みたいんだけどなぁ)父が「家で発泡酒なんて絶っ対にイヤだ!」と言って聞かないのだ。
何気なさを装ってそんなことを考えてはいるが、この手だけはわたしの心に正直だった。
ビールの缶を握る指が……心なしか震えていた。
「……あ、おとうさんから聞いたよ。
あんた、田中 諒志とお見合いするんだって?」
わたしは気を落ち着けるためにスーパードライを一口呑んだあと、反対の手で洗い立ての真っ黒な髪をばさっと掻き上げた。
妹の目から、ビールを持つわたしの震える手を逸らすためだ。
……七海には、どうしても気づかれたくなかった。