カラダから、はじまる。
手にしたのは「ロシュフォールの恋人たち」だった。
この映画は名匠ジャック・ドゥミ監督が、今やフランスの国民的大女優となったカトリーヌ・ドヌーヴがまだ駆け出しの頃に起用して撮った「シェルブールの雨傘」で、カンヌ国際映画祭の最高賞を獲ったあと、再度彼女を主演に据えて製作した作品だ。
軍港のある港町ロシュフォールを舞台に「いつかはパリへ行きたい」と夢を抱く、W主演のフランソワーズ・ドルレアック扮する双子の姉とカトリーヌ・ドヌーヴ扮する双子の妹を中心に、その周辺の人々もとにかく「みんなが恋してる」映画である。
……姉妹が一人の男を巡って争う脚本じゃなくて、ほんとよかった。
最初に観たときには思いもよらなかった感想だが、今のわたしは心底そう思う。
作曲家を夢見る姉は、自作の曲の譜面を落としてしまい、ジーン・ケリー扮するこの町を訪れたアメリカ人の作曲家に拾われる。実は、彼こそが姉が自分の曲を見てもらいたい憧れの人だった……
ダンサーを夢見る妹は、恋人である画商の店で自分の肖像画を見つける。ジャック・ペラン扮する画家志望の水兵が描いたものだった。
だが、彼女には絵のモデルになった覚えもないどころか、その水兵の顔すらも知らなかった……
双子姉妹の母親は、三人の子を持つシングルマザー。町で人気のカフェを営んでいる。
ある日、作曲家志望の双子の姉は、最近開店した楽器店の店主から、十年前に別れてしまったが今でも忘れられないという女の話を聞く。
実は、それは自分たちの母親のことで、その店主は母の元カレで、しかも自分たちの異父弟の父親だった……
全編を彩る、軽快ではあるがどこか切なさを漂わせるミシェル・ルグランのメロディに乗せて、バレエ経験のあるフランソワーズ・ドルレアックとカトリーヌ・ドヌーヴの双子ダンス、大御所ジーン・ケリーのタップダンス、ダンサーでもあるジョージ・チャキリスのキレのあるジャズダンスがふんだんに盛り込まれた、とても一九六七年につくられたとは思えない、今観ても色褪せることのないオシャレでポップなミュージカル映画だ。
(最近大ヒットした「ラ・◯・ランド」よりもずっと「新しい」と思う)