カラダから、はじまる。
わたしはまた一心不乱にキーを打ち始めた。
山岸はもう無駄口を叩かなくなったし、戸川はそそくさと本宮のいる自分の課へ戻って行った。
先日の二月二十七日が、七海の誕生日だった。
けれども、どうも出かけた様子がなかったので、
『あんた、誕生日なのに田中と会わないの?』
と、わたしは彼女に訊いた。
すると、みるみるうちに七海の顔が曇っていった。
『……ま、今のあいつの状況じゃ、無理だわね』
無言のままの七海に対し、わたしは自分自身で答えを出した。
どうやら、七海はあのデートの日以来、田中とは会えていないらしい。
あいつのことだから、たぶん通話はおろかLINEもメールもしない、いつもの「放置プレイ」だろう。七海がとまどい不安に思うのも、無理はない。
彼らに「進展」が見られないことにホッとしたわたしは、自然と湧き上がってくる笑みを必死で噛み殺した。
そして……七海にとって自分が、イヤな姉に成り下がってしまったことを、まざまざと感じた。
そのとき不意に、七海が首元を触った。
田中から誕生日プレゼントにもらったという、トップにアメシストの輝くネックレスが、わたしの目に飛び込んできた。
七海があのデートの日以来……つまり、田中からプレゼントされて以来、ずーっと身につけているネックレスだった。