カラダから、はじまる。
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課の出入り口から廊下に出ると、ちょうど向こうから田中と高木が歩いてくるところだった。
これから、父のいる事務局長室へ行くのかもしれない。

すると、田中がわたしに気づいて立ち止まった。

「あ、水野……ちょっといいか?」

……めずらしい。田中の方から声をかけてくるなんて。

ぽわーっと浮き立つ気持ちをぐっ、と抑えて、わたしは彼の方に向き直り、わざとぞんざいな感じで立つ。

「なにかしら?」


「……諒志さん、先に行ってますね」

場の「空気」を察したのか、すかさず高木がそう言った。そして、わたしに「失礼します」と会釈したあと、すっと前を通り過ぎて行く。
ふわりと白檀の香りだけが残った。

……どこのフレグランスかな?
サンダルウッドがベースなのかしら?

「ウワサに(たが)わず、優秀な『秘書』さんね。ちゃんと(わきま)えてるし」

好奇心の塊のような戸川なら、へばりついてここから離れないだろう。

「……それに、所作がすごく綺麗だわ」

背筋を伸ばして(たお)やかに歩く高木の美しい後ろ姿を、わたしは目だけで追った。

「あぁ……あいつは子どもの頃から日本舞踊をやってるからな」

……えっ? プラベを把握しているのは、高木だけじゃなくて田中の方も、ってこと?

確かに、田中が自分の方のプラベを一方的に握られているとは考えにくいから、双方でというのは妥当なことではあるが。

「もしかして……昔からの知り合いとか?」

思わずわたしが問いかけると、田中は首を左右に振った。

「いや、役所(ここ)に入ってからしか知らない」

……そんな短期間で?
高木は入庁(入社)してまだ四年足らずのはずだ。


だけど……

なかなか他人に心を開かない彼が、高木にはなぜそうなのか、先刻(さっき)の二人の短いやりとりでほんの少し(わか)った気がする。

いや、「短い」からこそ、判ったのだ。

別にいちいち説明せずとも……二人の間には「通じ合うものがある」ということを。

さらに、互いに静謐(せいひつ)な雰囲気を持ち合わせていて、二人が並んで歩いていると、ほんと「お似合い」なのだ。


でも、だとすると……

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