カラダから、はじまる。
「……彼女はどうしてる?」
田中は、わたしの質問には完全スルーして逆に訊いてきた。
……うわっ、話題を変えやがったな?
「水野局長と君の様子から、おれの今の状態をわかってはくれていると思うが、まだ二回しか会えてないんでね」
もちろん身なりはきちんとしているが、たぶんほとんど新宿の宿舎には帰れていないんだろう。
田中の顔は青白く、はっきりと疲れが滲み出ていた。
「わたしも、七海とはほとんど会えてないわよ。家には眠りに帰るだけだもの」
ホレた弱みだ。「わたしの質問には、答えないつもり?」とは言えなかった。
しかも、こうして彼と二人で話しているというだけで、心はふわふわと浮き立っているのだから。
「もともと、休みの日に出歩く子じゃないのよ。
呑みに行くときは、会社の呑み会とかみたいだしね。そういうときは、会社の友達のアパートに泊めてもらうこともあるらしいけれど……」
そのとき、田中のリムレスの眼鏡がギラリと光ったような気がした。
「そうか……大人気ないとは思ったが、釘を刺しておいたのは正解だったな」
田中がぼそりとつぶやいた。
……はい?