カラダから、はじまる。
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先刻(さっき)までの田中とのことを反芻しながら、わたしはフロアのエレベーターホールの前で降りてくる箱を待っていた。

どう考えても……田中の七海に対する接し方は、今までのオンナたちとはまったく違っていた。

わたしの眉間にぐーっとシワが寄る。


「おう、七瀬」

突然声がして、わたしはのそりと顔を向けた。

……本宮だった。

「なんだ……今から昼メシか?」

彼の目線はわたしのトリーバーチのポーチにあった。

「おれも今日は食いっぱぐれていて、まだなんだよなぁ……おっ、今なら行けるかも。職員食堂(社食)に行くんだろ?おれも行くよ」

本宮は左手首の時計を見ながら言った。

エルメスとコラボしたアップルウォッチだ。
男性でつけてる人はとんと見ないが、ブラックフェイスに(なめし)革のシンプルトゥールのベルトが彼によく似合っていた。

「……ねぇ、奢ってくれるんでしょ?
だったら、外でランチを食べましょうよ?」

たとえ深呼吸したところで排気ガスなどに(まみ)れまくった都心の空気だったとしても、この鬱屈した気持ちをキレイさっぱり消し去りたかった。
それに、一人で行ってもまた鬱々と考え込んでしまうに違いないし。

「マジかよ?なんで、ほとんど同じ給料のヤツに奢らなきゃいけねぇんだよ」

本宮はそう言って大仰に顔を(しか)めたが、実は外に出たときには気前よく支払ってくれるのをわたしは知っている。

「戸川も呼ぶ?」

自分一人だけ奢ってもらうのも悪いので(奢ってもらうのは決定事項だ)言ってみた。

「とっくに昼休憩させてるよ。そっちも、山岸はすでに昼メシ食っただろ?」

ちょうどそのとき、エレベーターが降りてきて、わたしと本宮は箱の中へ乗り込んだ。

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